図書室
第86話
――大学やめたらどうなるかわかってるの?
――卒業と中退じゃ、その後の人生が大きく違うのよ。
――高卒より悪いくらいよ。
――どこが雇ってくれると思うの。
――とにかく、大きな間違いよ。これから社会に出るっていうときに。
――わかってるの? あんたはいつも考えが足らないんだから。あんたに任せたらろくなことになりゃしない。
――お母さんがどんな思いであんたを育ててきたと思ってるの。一度でも考えたことあるなら、こんな親不孝はしないわよね。
うるさい。うるさい、うるさい、うるさい、うるさい。
あんたの話はいつも同じじゃないか。同じ言葉で人を批判して、二〇年前からずっと変わらない価値観を押しつけてくる。そのためにあんたは短大を出たのか。そういうあんたは一度だって子どもの気持ちを考えたことがあるのか――。
エレベーターに乗り込みながら、安治は思い出し怒りをする。
よくあることだ。別にきっかけもないのに、急に嫌な思い出が浮かぶ。
――まったくあいつはどうしようもない。
安治は母親のことをそう思う。きっと向こうも安治のことをそう思っている。
親子は合わせ鏡とはよく言ったものだ。
「フラッシュビートル、図書室まで」
「ハイ」
違うのは学歴に対する価値観か。エリート意識の強い母は、一流大学しか認めないという人だった。
ただし、男の子のみだ。女の子にはむしろ学歴は必要ないという考え方だった。いずれ嫁に行くのだから――と。
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