第339話

 安治は基本、罪悪感を覚えやすい人間だ。おりょうが不満を口や顔に出さなくても、自分は迷惑をかけているのではと疑ってしまうし、相手が怒っていれば自分が怒らせたのだと思う。歴代の彼女と最終的にうまくいかなかったのも、結局は自分が不完全な人間だからだと思っている。

 ものごとがうまくいかないのは、自分が駄目な人間だからだ。

 でもこのときは、泣きそうな女性を前にして、自分が悪いという気持ちが起きなかった。それよりも面倒ごとを持ちかけてこないでほしいと思った。

 ――疲れてる?

 気づいて自問する。あのゲームは意外と体力を消耗する。眠気こそ感じていないものの、頭が疲れているのかもしれない。

「あの……ごめんね」

 できる限り優しい声で謝る。理由はよくわからない。とにかく自分のせいでショックを受けているようだから、ひとまず謝るべきだと思った。

「何が?」

 クズハは涙を堪えつつ、怒った口調で返した。

 ――何がだろう……。

 やっぱりうまく立ち回れない。駄目な自分……。

 安治は落ち込んだ。

「つまり、あなたはかつての安治じゃないってことね」

 怒ったような、諦めたような口調で言われる。

「はい」

 この返事はさすがに躊躇わない。申し訳ないと思う必要はないだろう。不可抗力だ。

「どうして?」

「わかんないんですけど……実験の失敗だって」

 言うとクズハは目に涙を溜めたまま、こくこくと頷いた。

「そうよね。しょうがないわよね。私たちの宿命だもの」

 ――宿命?

 どきっとする。それは自分たちの生まれにまつわることだろうか。

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