第340話

 改めてクズハの背中に生えている小さな羽根に目を遣る。

 あまりにわざとらしくきれいな造りなので、装飾品なのだろうと思っていた。見れば整理のつかない感情を代弁するように、細かくさざめいている――かと思うと、深呼吸に合わせて大きくばさっと開き、それからゆっくり閉じた。

「――本物?」

「当たり前でしょ」

 突っ慳貪に言ってから、少し気を遣ったように態度を和らげる。

「珍しい?」

「うん……初めて見た。……今の自分になってから」

 クズハはばさばさと羽根を動かして見せた。腕と同じように左右別々にも動かせるらしい。

「生まれつき?」

「そうよ」

 同じ研究所産ということか。だから親しかったのだろう。

「あの、何歳? ひょっとして、子どもの頃からの付き合いだったり……」

「そうよ。生まれたのはあんたより半年前」

「そうなんだ……」

 急に聞きたいことがたくさん浮かんだ。ここでの自分はどういう人間だったのか。研究所産の生活とはどんなものなのか。仲間はどれくらいいたのか。他にどんな仲間がいたのか。今クズハは何をしているのか。自分とはどういう関係だったのか。……思いつきすぎて、最初にどれを問えば良いのかわからない。

「今、何してるの?」

 先に彼女のほうから訊かれた。

「今……タナ……えーと……、新しい人間……ロボット? の、教育……世話係? を、してる」

 たどたどしくなった。

 自分のことを訊かれると咄嗟には答えられないものだな――と自嘲気味に思う。

「ああ、アントロポスの教育をしてるの? ……あんたが?」

 最後は真剣に驚いている風だった。

「うん、あの……前はけっこう俺、研究所産の面倒を見てたって聞いたんだけど……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る