第201話
ファミリーの本社は街外れにある。対してここはマチの中心地だ。建物が多く、一番燃え盛っているはず。そこにわざわざ助けに来るだろうか。来る意志はあっても、手前の避難所から回れば時間がかかるし、そのうちには道路も通れない状態になってしまうのではないか。
やがて道路を挟んだ反対側の家が焼け落ち、壁を挟んで隣接する家が焼け落ちた。消火栓からは一向に水が出ず、雨一粒も落ちない空には星が浮かび始める。
電気は点かなかった。電線が焼けたのだろう。しかし暗くなる空に反して地上は暗くならない。街全体が赤く揺れている。
一分ごとに熱気が強くなり、煤と煙で息苦しくなった。当初は短気を起こして怒りをぶちまけていた人たちも次第に黙り込んでいく。なるべく吸い込まないよう、酸素を余計に消費しないよう頭を地面に近づけてじっとしている様は、まるで神様に許しを請うようだ。
その間をアソウギだけが、備蓄していた水で濡らしたタオルを配りながら皆を励まし続けていた。
「もうすぐですからね。頑張りましょうね」
いつも通りの優しい声と笑顔。ほっとすると同時に、こんなときまで働かなくていいのに――と皮肉な思いが浮かぶ。
安治は何かを期待するのをやめた。さっき会えなかった澄子の笑顔を思い浮かべる。
――きっと、もうじき会える。
この、地獄ではない場所で。
しかし、現実は予想とは違った。
唐突に拡声器の不快なハウリングが響いた。続いてみち子の声が、いつも通りの勝ち気な口調で告げた。
「来たわよ」
顔を上げると門の外に、バス型の装甲車が横づけに停まっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます