第200話
「たまちゃん……伯母さんは?」
思いついたように聞く。たま子はいつも通りの飄々とした様子で答えた。
「知らん。家に行ったが、いなかった。奉公先は無事だった。ボクだけこっちの寺子屋に来たんだ。向こうも今頃避難してるだろ」
「あ、そうなんだ。良かった」
「お前のほうは?」
たま子はほんの少し、訊きづらそうに訊いた。安治の一家は、避難するとすればこの寺子屋しかない。いないのが答えだ。
家では父親と祖父の姿が確認できなかった。きっと店舗のほうか、夕刻なので花街に遊びに行っていたのだろう。
ひょっとしたら生きているのかもしれない。生きていて、自分を探しに来てくれないだろうか……と切なく思う反面、どうでもいいと感じた。家も母も姉弟もなくなったのだ、どうあがいてももう元通りの生活には戻れない。
不意に涙がこぼれそうになって、慌てて首を横に振る。
「悪い」
たま子が小さく謝る。
自らの膝に顔を埋めた琥太朗は、静かに泣いているようだった。時折小さくすすり上げる。彼の両親の安否はわからないものの、安治もたま子も無責任な言葉で励ます気にはなれない。ただ黙って寄り添っていた。
――みんな、どうせ死ぬんだから……。
心の中で呟く。そうすることで強い恐怖に押し潰されるのを回避する。状況に関わらずその場に落ち着きが保たれていたのは、多くが同じ諦めを抱いていたからかもしれない。
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