第140話

「ソポス?」

 それは何だと聞き返したつもりだった。しかしみち子は頷いたきり説明してくれない。

 戸田山に視線を送ると、軽く苦笑しながら、

「うちのチームはソポスを研究してるんだよ」

 とだけ教えてくれた。

 指輪のことをこのマチではソポスと呼ぶのだろうか?

 指輪を眺める間に所長が戻ってくる。視線を上げた安治は、所長の横に立った人影に息を飲んだ。

 腰まで垂らした真っ白い髪、西洋人めいた白い肌に整った顔立ち――背の高い、美しい青年の造形だと理解が追いついたのは一秒ほど経ってからだった。

 それ以前に、その青年と目が合った。青みがかって見える灰色の瞳がまっすぐに安治を捉える。それは赤ちゃんのように曇りなく、ビー玉のように――無機質な瞳だった。

「――ロボット?」

 クラで房江を見たとき以上に処理できない不可解な感覚に、全身が総毛立った。極めて人間のようで人間ではない――まるで人間の剥製を見せられたような気持ち悪さに動悸を覚える。

「違う!」

「痛ッ」

 怒気を含んだみち子の声とともに後頭部を叩かれる。一方で戸田山は、

「勘がいいなあ」

 と感心していた。

 かまわずに軽い笑みを浮かべた所長が、

「タナトスよ」

 と紹介する。何の笑みかと思えば、おそらく自慢だ。得意げに続ける。

「あなたには今日からこの子の教育係になってもらうわ」

「え?」

 ――教育係?

 内心で慌てる。予想とあまりに違いすぎる。どう考えたって自分が教わる立場ではないのか。

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