第141話

 所長はかまわずタナトスに声をかける。

「タナトス、安治よ」

 作り物のように美しい青年はゆっくりと首を回して所長を見、それから安治に視線を向け直して声を発した。

「安治」

 ――意外と高い。

 西洋人風の見た目と長身から、もっと落ち着いた声を想像した安治には少し意外な声だった。ごく日本人らしい、細く澄んだ声だ。アニメの美少年のような。

 タナトスは無表情だった。いや――。

 新しい教育係を瞬きもせずに注視している。その動機は好奇心だ。無表情に見えるのは、幼い子どもが何かに集中したときに見せる表情だ。

 ――期待されてる……?

 安治は強いプレッシャーを感じた。「教育係」という響き自体、気が重いし、ましてや期待されると……。

「タナトスは大人に見えるけど、中身はまだ子どもなの」

 椅子に座ったみち子が説明する。すかさず淹れ立てのコーヒーとクッキーの缶を差し出す戸田山。

「ありがと。――私たちが創ってるアントロポスよ。まだ試作だけど現時点での最高傑作で、この研究所のトップシークレットね」

 安治は内容より、クッキーを噛み砕くボリボリ言う音が気になった。説明する間くらい、食べるのを我慢できないのだろうか。だいたいクッキーは一枚ずつ食べるもので、同時に三つも口に入れるものではない。

「聞いてる? とっても貴重な存在だから、扱いに気をつけてほしいってことなんだけど……」

 後ろから戸田山がこそっと注意する。

「え、はい?」

 ――貴重な存在? トップシークレット?

 そんなものを任せられても困る。安治は急に慌てた。

「無理です。できません」

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