第415話
「あれとは?」
タナトスが緊張感なく訊いてくる。
「……正面の壁にいる、黒い奴。人の形してる」
「見えない」
「……知ってる」
――ヤツハシなのか?
多分、そうに違いない。しかし奇妙だ。ヤツハシが人の形になるのは床か壁にできた水溜まりから空中に出てきたときのみで、平面に貼りついたまま人の形になっているのは他にはいない。そうするとこれは――。
――新種?
まさか変異株というやつだろうか。第一形態のヤツハシが広がりきったので、第二形態に進化した――?
――所長に連絡したほうがいいかも。
思いついて端末を取り出したときだった。新着メッセージを知らせる音が鳴った。また一斉送信のだ。内容を確認する。
「……B五地区、浸水準備完了……?」
呟きを拾ってタナトスが頷く。
「ここ、B五地区」
「あ! 龍?」
途端に気持ちが華やいだ。どんな状況だろうと龍が見られるのは嬉しい。
もっと喜んでいる人物がいた。たま子が研究室から駆けつけて来て、晴れやかな声を出す。
「おい、読んだか。いよいよお出ましだぞ。意外と早かったな」
「たまちゃん……羨ましいよ、平気で走って来れて。俺じゃ何時間かかるか」
「久々にミカヅチ号が拝めるらしい。いやあ、楽しみだ」
言っている間に、通路の両側にある扉が一斉に開いた。クラがあるほうの通路の奥を見つめる。
三分ほど待って変化に気づいた。
「なんか……歪んでる?」
元から暗かったのが更に暗くなり、ぼやけて見えるようになった。たま子が頷く。
「ああ、水が来る」
「水?」
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