第414話
雪柳はと言えば、たま子と協力して回復した人の面倒を見たり、クラと研究室を往復したりしていた。
安治にもおしぼりと飲み物とお菓子を置いていってくれた。気持ちはありがたいが、気分転換で飲食物を摂るわけにはいかない。いつでもトイレに行ける状況ではないのだ。
もう三分の二、いや四分の三まで来ているかも……と思いつつ我慢できなかった。
「ごめん、ちょっと休む」
壁に凭れかかれるだけのスペースを作って座る。タナトスはいささか不満げにしたものの、何も言わずに隣に座った。
痛みを覚え始めた右肘を撫でながら後頭部を壁につける。視線は自然と反対側の壁に向かう。
そこに奇妙なものがあった。いや――いた。
等身大の人間サイズの黒い人影。他のヤツハシと違い、それだけは下半身もついた全身だった。色も半透明ではなく真っ黒。それが床から三〇センチほど浮いたところに貼りついている。
「……なんだあれ」
呟いたのは、内心の混乱を抑えるためだった。冷静に声を出すことで、少しでも恐怖心を紛らわそうとしたのだ。
実際のところ、それが何なのかなんてどうでもいい。それよりも今すぐに立ち上がって逃げ出したい。何故ならそれには二つの金色の目があって、はっきりと安治を見下ろしていたからだ。
しかし逃げることは敵わなかった。床が見えているのは半径二メートルほどだけで、それ以上移動するにはまた掃除機で吸う必要があるのだ。
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