第285話
「どうした。冷蔵庫か?」
訊いたのはエロスだった。安治とタナトスの脇腹の間から覗き込む。
「ううん……」
否定して安治は指を差す。
きれいに刈り込まれた庭木の陰に蠢く影があった。ほとんど黒くなった白衣を身に纏い、身を屈めて何かを探している。白髪の混じる頭は長らく手入れをしていない様子で、ちらりと見えた手首は驚くほど細い。おかしな言動をしているわけではないものの、どこか狂気めいた雰囲気を放っている。
「あれって……」
――冷蔵庫チーム?
目で問う。たま子が頷いた。
「あれは……」
「秋元だな。元家電チームの」
人物名を言い当てたのはエロスだった。聞いてたま子が息を吐く。
「ああ、秋元さんか。……だいぶお変わりになられた……」
その表情は複雑で、悲痛な色が目に浮かんでいた。安治の問いかける視線に気づいて説明する。
「秋元さんは、もうちょっとで班長になれるところだったんだ。齢はまだ四〇過ぎだったと思う。働き盛りといった感じで健康的な人だったんだが……」
冷蔵庫に取り憑かれてしまったのか。
「あの人、冷蔵庫を探してるんだよね?」
わかりきった問いを放って安治は三人を眺める。てんでに頷く三人。
「…………」
言おうか迷い、口をつぐむ。秋元氏のすぐ斜め前に古めかしいメタリックの冷蔵庫が立っているのだが、誰にも見えないらしい。おそらく秋元氏にも見えていない。
見えていないのに――。
「何をしてるのかな」
これにはエロスが答えた。
「一応長年の研究で、出現しやすい環境というのが推測できるらしいんだ。多分その条件に合う場所を探しているんじゃないか」
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