第425話
――違う。
戦慄した。それはゲームの中の記憶ではないか。それが今、あたかも実際の記憶であるかのように思い出された。
――自分は誰なんだ。
急に怖くなって鼓動が跳ね上がる。
本物も偽物も記憶の中では区別がつかない。矛盾すればそれは偽物だと気づくけれど、矛盾しない限りはそれが本物だと思ってしまう。ならば記憶をあてにすることができない。記憶があてにならないなら……何を信じればいいのか。
――落ち着け。
自分に言い聞かせる。何もおかしなことは起きていない。今のはただ、ゲームの内容を思い出しただけだ。朝見た夢を思い出したのと同じだ。ドラマのシーンを思い出したのと同じだ。よくあることだ。何も異常なことではない。何も……。
――本当にゲームの記憶なのか?
「どうした。顔色悪いぞ」
「たまちゃん……。俺、たまちゃんと一緒の寺子屋に通ってた?」
「いや? お前と知り合ったのはここに入ってからだ。お前はこの施設で育ったんだから、寺子屋へは通ってないぞ」
「……だよね」
なるべく思考を働かせないようにして深呼吸をする。一回、二回……。
――忘れよう。
一人頷く。嫌なことは考えるだけ無駄だ。無駄なことはしないほうがいい。
鳩のようにこくこくと頷くのを待って、たま子がおもむろに切り出す。
「もういいか? さっきお前が見えたものなんだがな」
「え? あ、うん」
「何が見えた?」
「だから、えーと……黒い人影だよ。壁にくっついてる」
「壁にくっついてたのか?」
「そう。だからヤツハシかと思ったんだけど……でもヤツハシより真っ黒で、全身なんだ。人がそのまんま平たくなって壁に貼りついてるみたいな」
たま子はちらと安治の後方に目を遣った。何も言わず話の先を促す。
「で、目があるんだよ。金色の。白目が金色で、それがこっちを見てるんだ」
「ボクにはそんな風には見えないがな」
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