第424話

「ボクも昔はそう思ってた。だから訊いたんだ。なんで戸田山のほうが班長じゃないのかって。本人が言うには、班長ってのは――ソトで言う――社長に近いんだそうだ。社長ってのは、ではない、だろ?」

「ああ……何となくわかるよ。社員は自分の担当のことができればよくて、社長は全体をまとめる役っていうか……」

「そういうことだ。姐さんは研究者としてはあんまり腕がないんだ。その代わり、チームを仕切ったり他のチームと折衝したりができる。所長とも対等にしゃべれるしな。逆に優秀な研究者はそういうことをしたがらない」

「うん、自分の研究だけに時間を使いたいよね。人とコミュニケーションするより」

「だからな、持ちつ持たれつなんだよ。姐さんがいまいち専門的なことに疎くても、配下のドクターは文句を言わない。でも話が伝わらなくても困るから、その仲立ちをするのが戸田山って感じだな」

「戸田山さんって、みち子さんに気がある?」

 ふとそんな疑問が口から溢れた。前から考えていたわけではない。単純な思いつきだった。

 たま子はしかつめらしい表情になった。肯定も否定もせず、

「趣味悪いよな」

 とだけ言った。

「なんでたまちゃんはみち子さんと仲がいいの?」

 ついでにもう一つ、こちらは以前から気になっていたことを訊く。先ほどの例えを借りるなら、社長とアルバイトで仲がいいようなものだろう。戸田山とみち子はそこまでフランクな関係ではない気がする。

 たま子は軽く答えた。

「ああ、昔からの知り合いだからな」

「昔から? なんで?」

「姐さんは研究所に入る前、寺子屋で先生をやってたんだ。子ども受けもいいし、いい先生だった」

「ああ、オーナーの娘なんだっけ?」

「ん、なんで知ってるんだ?」

「え?」

 問われて自分でも不思議に思う。なんで知っているのだろう……。

 すぐに思い出す。、自分もたま子と一緒に寺子屋へ通っていたからだ。そこには若き日のみち子もいた。

 ……いや。

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