第99話
「うん、見たい。……うわー、来てよかった」
たま子が複雑な表情を浮かべる。それと共に安治は自分の失言に気がついた。
「来た」わけではないのだ。しかしどうしても、記憶にある生活や家族こそが自分のものだという感覚から抜け出せない。
たま子は訂正も否定もしなかった。ただ、
「以前のお前はひねくれていて、ここをよく思っていなかった。龍にしても、騒ぐのは馬鹿馬鹿しいと思っていたようだがな」
と言った。それは、以前の自分に戻って欲しいという要求なのだろうか?
「まあボクは、今のお前のほうが素直で可愛げを感じるが」
「…………」
ありがとうと答えるべきか迷った末、何も言わずに神妙な顔をする。すぐにたま子が、
「端末は使えそうか?」
と話題を変えた。
「あ、うん」
取り出してテーブルに置く。手に持つたび、スマホと比べて重さのない感覚に違和感を覚える。板切れかおもちゃのようだ。
「これって、何ができるの?」
「何って、連絡ができる。実際に使ったじゃないか」
「だから、それ以外に」
問われてたま子は両腕を組む。考えながら意味ありげに安治を見つめる。安治はわけもなく責められている気分になる。
「え、何?」
「多分……何もできない」
「多分って」
「お前の考えるようなことは、という意味だ。ボクはお前が使っていた端末にどんなことができるのか、よくは知らない。でも多分……何も」
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