第100話

「買い物は?」

「買い物?」

「通販だよ。これで注文したり――」

「……欲しいものを姐さんに連絡したりはする」

「いや、お店に直接注文するってこと」

「店に電話はできるが」

「ああ、そういう意味じゃなくて。電話とメッセージ以外で」

「ないな。そもそも買い物をしないぞ」

 ――そうだった。

 返す言葉に詰まる。

 お金が存在しないのだから、買うということもないのだ。

「でも、じゃあどうやって、服とか食べ物とか手に入れるわけ?」

「生活に必要なものはクラに行けばある。自分で行ってもいいし、頼めば持って来てくれる」

「頼むって誰に?」

 それは通販のようなものではないのだろうか。

「オイコノモスだ」

「何それ」

 言いながら思い出す。

「あ、知ってる。あの、部屋でしゃべるやつね」

「そうだ。それに言えば、大概のものは配達してもらえる」

「それってお金――っていうか、精算は?」

「ないな」

「記録はされてるんでしょ? 今月はもう上限だから、これ以上は頼めませんよ――とかないの?」

「上限て何だ? 必要なものだから注文してるのに、もらえなかったら困るだろ? そりゃ在庫がなければ無理だし、必要以上に注文すれば拒否されるが」

「んー、上限はあるでしょ? たま子さんと所長だったら、所長のほうが多い、みたいな」

 どうにか給料という単語を使わずに表現しようと試みる。

 たま子は難しい顔で少し考えた。

「……まあ、あるのかもしれないが……考えたことなかったな。……つまりお前は、役職によって受ける恩恵に差があるだろうってことを言いたいんだよな?」

「あ、うん。そういうこと。みんな同じじゃないよね?」

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