第101話

「そうだな。それはある。数に限りのあるものは立場が上の人のほうが受け取る権利がある。だからレアなものが欲しいときは、オイコノモスではなく姐さんに頼むんだ」

「レアなものって、例えば?」

「例えば……出たばかりの漫画とか」

 金額的に高いものを予想していた安治には意外な答えだった。

「漫画?」

「時間が経てば入ってくるんだけどな。最初は奪い合いなんだ。数が少ないからみんなで回し読みしてすぐにぼろぼろになる。その時期の新刊は貴重だぞ。なんだ、不満そうだな」

「えーと、例えば車とか……」

「研究所の人はあんまり敷地の外に出ないって言っただろ」

「あそっか。じゃあ高級な腕時計とか」

「あんまり人気ないな。レアでも奪い合いにはならない」

「iPadは?」

「コンピュータか? コンピュータは入ってこないぞ。マチで使うのは全部アバカスだ」

「それってマチで作ってるの?」

「作ってるんだか、入ってきたコンピュータを改造しているだけかは知らん。似てるだろ?」

「うん。図書室ここにもあるよね。さっき見たよ。あれ、パソコンじゃないんだ……」

「お前の部屋にもあるはずだぞ。帰ったら触ってみろ」

「うん。――あ、ゲーム機は? スウィッチとかプレステとか」

「うん? ゲームはゲームカフェだろ?」

「ゲームカフェ? あ、ネットカフェみたいな?」

「違う。ゲーム機を使えるカフェだ。ゲーム機は個人所有できないだろ?」

「え?」

「え?」

 お互いに真顔で見つめ合う。

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