第102話

「……できるよ。家にあったよ。何なら自分専用のが部屋にあったよ」

「それは借りてるだけじゃないのか?」

「借りてる? どっから?」

「……政府?」

「政府?!」

 思わず吹き出す。反対にたま子は難しい顔をしている。

「あ、ごめん、笑って……」

「いや。聞きたいんだが、政府や何かから借りているものというのはないのか?」

「借りる? まあ、アパートは借りてたよ。政府じゃなくて個人からだけど」

「家はみんな借りるものなのか?」

「え? 違うよ。実家は親のだよ。……家や土地はだいたい個人が所有してるんじゃないかな。で、個人から借りる。お金払って」

 ――政府のもあるか。

 乏しい知識を総動員して思い出す。安治が育ったのは持ち家が多い地域だったので失念していたが、そういえば別の学区には公営住宅があったような。広い屋敷での窮屈な生活にうんざりしていた思春期の安治は、いつかそんな集合住宅で一人暮らしをしたいと願ったものだ。

「家の中のものは? アパートを借りた場合、家具は誰のものなんだ?」

「ああ、たまに家具つきの部屋っていうのもあるね。でも基本的には自分じゃないかな。冷蔵庫とか洗濯機とか、自分で買って用意したよ。エアコンは最初からついてたけど――」

 ふと思い出した。大学でできた友人にある日、良い部屋が見つかったから引っ越した、遊びに来てくれと嬉しそうに誘われたことがある。それまで実家から二時間かけて通学していたのが、大学近くに家具つきの安い部屋を見つけて手荷物だけで引っ越したらしい。

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