第103話
何故家具がついているのか聞くと、以前の住人が住み始めてじきに退去し、その際にまだ新品に近いのをすべて置いていったからだと言う。
そのとき安治は忙しくて、すぐには遊びに行けなかった。そのうちに友人は、どこか窶れて人の目線を避けるようになった。遊びに行ったことのある別の友人が言うには、その部屋にいると、どこからか見られているような気配をずっと感じるのだそうだ。
話の真偽はわからぬまま、その友人とはそれきり縁が切れてしまった。思えば今頃、どこでどうしているのか――。
――そんなの、今考えることじゃない。
強引に意識を戻す。
「洗濯機とかけっこう高いし、自分で選んで買ったんだから、次に引っ越すときも持ってくんだよ。捨てるにしても自分で処分する。あ、処分するのにもお金かかるんだけど」
「そりゃそうだろうな」
たま子は頷いた。
「あれ、驚かない?」
「処分するのは大変じゃないか。ゴミが増え続けたら――」
言いかけて、何か思いついた表情をする。
「だから、マチは小さいって言ってるだろ。ゴミを出すことには神経質なんだ。多分、ソトより」
「あそっか。だから――えーと、自分で選んで用意するってことがあんまりないわけ?」
「そうだな。支給されるものっていう感覚だから、無頓着かもな。いや、こだわる人はこだわるけどな。機械が好きな人間は多いから。そういう人は自分で改造しちまう」
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