第104話

「ソトだと、欲しいものを手に入れるには、働いてお金を貯めて買うしかないんだよ。ここではそのがないんだね?」

 お金を貯めるというステップがないから、手に入るものへの執着が少ない。だから誰かが独り占めをすることもなく、すべてが無料でもみんなでちゃんと分け合えることができるのだろう――安治は何となく理解した。

 わからない顔をしているのはたま子のほうだった。「そうなのか?」と自問している。「ともかくだな」

 考えるのを放棄したらしいたま子が声を大きくする。

「アバカスじゃゲームはできん。やるならゲーム機の貸し出しがあるから、オイコノモスに言ってみろ。新しいのでなければ簡単に借りられる」

「うん。それ以外もとりあえずオイコノモスに言えばいいの?」

「いいが――じゃあ、クラに行ってみるか。服なんかは自分で見て選びたいだろ」

「あ、うん」

 早速立ち上がったたま子に続いて立ち上がる。

 小部屋を出たところで瑠那に遭遇した。

 まるで恋人に向ける風の笑顔を向けられて、思わず安治は固まる。改めて見ても、やっぱり少しも可愛くない。ひょっとしてずっと待ち構えていたのだろうか?

 安治に纏わりつこうとするのに先回りして、たま子がプリンの紙袋を押しつける。

「やる。美味いぞ」

「あ、ありがと……」

 思わず受け取った瑠那が中身を確認する間に、二人は急いで図書室を出た。

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