クラ

第105話

 図書室からクラへは徒歩だった。やけに段差や坂道、カーブが多く見通しの悪い狭い通路を横に並んで歩く。都心部の込み入った路地のようだ。もちろん路地は元からの地形によってそうなっているわけで、ここは意図的な設計のはずである。

「変わった建物だね。なんでこんな造りなの?」

「そうだなあ。攻め入られたとき用じゃないか?」

 軽い問いかけに、軽く返される。安治は連れのしらっとした横顔を見やる。

「……いい加減なこと言ってる?」

「言ってないぞ」

 たま子は真剣に心外そうな顔をした。安治も心外だ。

「何、攻め入られたときって」

 物騒な話題を想像して恐る恐る訊く。

「そう心配するな。ボクが知ってる限りはないぞ。守りがしっかりしてるから、敷地に入られることはまずない――はず」

 曖昧な語尾をやけに強く言い切る。

「……誰が入るの?」

「ん? マチの人だよ。ファミリーをよく思わないマチの人。そうか、覚えてないか。……マチの住人は大きく、親ファミリー派と反ファミリー派に分かれているんだ」

「えーと、ファミリーっていうのは、ここのことだよね?」

「そう。隣の本社と、本社の持ち物である研究所――ここをまとめてファミリーって呼ぶ。ファミリーっていうのは、マチができてから来たよそ者なんだ。当時の住人は、ファミリーを受け入れる派と受け入れない派とで意見が対立しちまった。今は紛争はないけど、襲撃を受けることはたまにあるんだ」

 説明するたま子に深刻な様子はない。それが当たり前の環境で育ってきたからだろう。平穏な地域で育った安治には理解が追いつかない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る