朝食

第34話

 脱衣所でふと気がついた。

 窓がない。

 風呂場も覗く。やはりない。

 それでいて暗いわけでもなく、どの部屋にも窓があるかのように、ごく自然な太陽光に似た光が差している。

 ――どこから?

 天井を見上げる。白い板張りの天井にくっついているのは、ごく平凡な照明だ。スイッチは壁にあり、今は点灯していない。

 なのに明るい。

 首を傾げつつリビングに出る。そこもやはり、朝日が差し込んでいるように爽やかな光に溢れていた。広めの室内を見回す。窓は一つもない。

 ――なんで明るいんだ?

 一旦気になり出すと不思議で堪らなかった。一体どういう仕組みなのだろう。

 まあいい、おりょうに訊けば……。

 そう思いつつ温め直された料理の匂いを嗅いだ瞬間、そのことは安治の頭からきれいに消えた。

 改めてテーブルに並べられた朝食は、さわらの西京焼きに筍の煮物、菜の花のおひたしに出汁巻き卵、キャベツと玉ねぎの味噌汁にごはんという見事な和食だった。

「……料理、上手なんだね」

 お世辞ではない言葉が自然とこぼれる。卵焼き一つ取っても完璧な色と形で、口に入れる前から美味しいのがわかるようだった。

「はあ、やってますから」

 答えるおりょうは微笑んではいるものの、さほど嬉しそうでもない。これくらいで褒められるのか、と不思議がっている風ですらある。

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