第181話

「あ……俺、寝てた?」

 じきに不快感は消え、通常の感覚に戻った。最後の時間の途中で座卓に突っ伏して寝てしまったことを思い出す。

「ああ。寝不足か? 動けるならどいてくれ。邪魔だ」

「ああ、うん」

 慌ててバッグに本とノートとペンケースをしまう。プロジェクトに必要な調べ物をしている途中で睡魔に襲われた。借りた本なのに、涎でも垂らしていないか不安になる。図書館長も司書も厳しいので、汚したら小言を言われるだけでは済まない。

 たま子は座卓を持ち上げてさっさと部屋の隅に移動させた。安治も座っていた座布団を押し入れに戻す。今週は掃除当番ではないからさっさと帰れる。

 ――変な夢だったな……。

 既に消えかけている夢の尻尾を必死に掴まえて引っ張る。何だか、リアル過ぎて気持ちの悪い夢だった。悪夢だったのは間違いない。

「うわっ」

 押し入れを閉めようとしたところで不意打ちに遭った。中に隠れていた年少の子に飛びつかれたのだ。

にいに、遊ぼ」

 カエルのように飛び出してきたのは、実弟の潤也じゅんやと同い年の芳樹だった。今日は潤也が休みなので安治と遊びたいらしい。

 弾みで落として怪我をさせないように抱きかかえながら、内心で頭を掻く。

「参ったな。居眠りしてた分、レポートやらないとなんだけど……」

 弟たちが最近熱中しているのは、トランプとすごろくを合体させたようなボードゲームだった。終わらせるまでに早くても三〇分はかかる。

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