第410話
「じゃあ、なんでこんな格好……」
「趣味よ」
――いいの?
ソトでなら捕まる。個人の自由の範疇を逸脱してしまっている。
それが許される場所ということか、ここは。安治は感心しつつ呆れた。
ぷはッ、と息を吹き返すような音が聞こえた。続いてがばっと跳ね起きる気配に視線を向ける。馬の被り物をした中肉中背のほうの男性が立ち上がろうとしていた。
「あ……まだいきなり動かないほうが」
今まで皆、解放されてから正気づくまでに五分程度はかかっていた。みち子のように理性が回復する前に暴れ出したパターンだろうか。被り物のせいで表情が見えないので、判断に困る。
男性は立ち上がるのに失敗して転んだ。膝に力が入らないらしい。震える両手で上体を支えながら、喘鳴混じりの声を出す。
「はな……花江……」
「はなえ?」
人名だろうか。思い当たる節があるらしい雪柳が聞き返す。
「花江さんって、お仲間の女性ですか? フクロウの人?」
男性はこくこくと懸命に頷く。
「妻を……助け……」
「奥様? はどちらに?」
「クラに行くと……多分、その辺に……」
雪柳ははっとした顔になって安治を見た。
「安治ちゃん、クラに行きましょ」
「え? ――はい」
近くにあるのだろうか。
「この通りにあるのよ。研究室より先にそこを見たほうがいいわ。誰もいないかもしれないけど、たくさんいるかもしれない」
「まあ、そうですね」
放送を聞いて慌てた人が咄嗟に逃げ込んだ可能性もあるなと思い至る。
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