第409話

「面白いでしょ。この人たちいつもこうなのよ」

 こともなげな雪柳の声。こうと言われてもよく見えない。椅子もソファもない部屋だったのでまずは周辺の床を吸い込み、それから二人を吸った。影が晴れてようやく、何が奇妙なのかがわかった。

 二人はおそらく中年の、全裸の男性だった。顔はわからない。それぞれ頭に、豚と馬の被り物をしていたからだ。

 ――何かのプレイ中?

 いけない場面に踏み込んでしまったのだろうかと肝を冷やし、それから雪柳の言葉を思い出す。

「……いつもこう?」

「ええ、いつも。見たことない?」

 あれば忘れるはずがない。

「まさかこの格好で食堂とか行きませんよね?」

「行くわよ。だから、いつもなんだってば」

 言いながら雪柳は見晴らしの良い室内をキョロキョロと見回す。

「いないわね……きっと外出中だったんだわ」

「他にも仲間が?」

「ええ。あたしが覚えてるだけでも五人はいるもの。あとフクロウの人と……鹿と、ワニ」

「何を研究している人たちなんですか」

「確か、ぐるぐるさんについてよ。あたしも話したことはないからよく知らないんだけど」

「ぐるぐるさん?」

「知らないの?」

 意外そうなその表情と声音に、安治は慌ててごまかす。

「いえ、変わったものを研究してるなと思って」

「でしょ。どうやって調べるのかも謎よね。あたしだったら近づきたくもないわ」

「はあ……。その研究とこの格好って関係あるんですか?」

「ないでしょ」

 雪柳はけらけらと笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る