第430話

「それにしてもさ、案外いるもんだね」

 食堂内を見渡して言う。一〇人に一人、少なく見積もっても二〇人に一人くらいはダイモンを連れているのではないか。形状がそれぞれ異なるので、観察しようとすれば楽しい。

 たま子は返事をしなかった。眉間に皺を寄せてわざとらしくアイスコーヒーを飲む。話題にするなと言いたいのだろう。

「……ごめん」

 なので言い出せない。残りのうどんと竜田揚げをやっつけながら、たま子の後ろをちらちら見遣る。

 招き猫が最初に視えたときと変化している。大きさは一・五倍ほどに膨らみ、白い部分がやや黄みがかって見えるようになった。当初は愛らしい顔立ちだったのが、目が巨大化してややくどくなった。たま子が言っていた「暑苦しい」に近づいたのでは――。

 たま子はたま子で、安治の後方に視線を投げている。食堂に入ってきた人を目で追っているようだ。

 ――誰か知り合い?

 思って振り返る。慌ててたま子が「見なくていい」と言ったのは間に合わなかった。

「…………」

 瞬間的にいろいろな感情が込み上げて絶句する。

 頭に馬の被り物をした男性とフクロウの被り物をした女性が、カウンターで料理を選んでいる。どちらも全裸だ。

 無事でよかった。

 そうとだけ思えればいいのだが。

 初めて見る女性のほうは、おそらく四〇代か五〇代だろう、胸よりお腹が丸く突き出したユーモラスな体型だった。身体を締めつける服がないとこんなにも伸び伸びと成長し、なおかつ重力に服従してしまうのか……と驚嘆させられる。

 もっとも、服を着ていたとしてもこの人はこうだったのかもしれないが。

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