第431話

 安治はまず、女性が裸でいる点に衝撃を受けた。その点には既に慣れているだろう他の人たちには、取り立てて驚いている風はない。かといって、すっかり受け入れられている雰囲気でもなかった。

 近くにいる男性たちは視線をうっかりそちらに向けてしまわないよう気を遣っているのがわかる。一方で女性は、遠慮なくしげしげと見つめる人が多かった。おそらく自然のままに年を重ねるとこうなるのだという、貴重な見本に出会えたチャンスだと思っているのだろう。

 安治は手で両目を押さえた。何だか眉間の奥がくらくらする。体型もさることながら、無駄毛を処理していない女性は目に刺激が強い。

「食べた後でよかったな」

 慰めなのか揶揄なのか、たま子の言葉に頷く。まだ入る余地があるのでデザートでも取りに行こうかと思っていた気持ちが吹き飛んだ。胃が軽く波打っている。

「……はー……」

 ――夢に出てきませんように。

 心を落ち着かせるため、深く息を吐きながら正面に目を遣った。今見たのと対照的な――つまり、若く引き締まった女性の身体で口直しを図る。

 男物のオーバーサイズのシャツで隠していてもわかる。地味な頭部に反して、たま子はかなりスタイルがいい。細いウエストとコントラストを描く胸部の豊かさ……抱きついたときに得た確信があった。

 襟の下にある、小玉スイカでも隠しているような見事な丸い膨らみ。重力に逆らうその芸術的な形。

 ――下からすくい上げるように持ち上げたい……。

 不埒な幻想が脳裏を占拠する。

 下着のせいもあるだろうが、形がくっきりしているのはきっと肌に張りがあるからだ。下から持ち上げればそのまま、丸い形が上に移動するに違いない。実際、走ると上下に弾んでいた……。

 揉みたいのとは違う。そんな利己的な欲求ではない。ただ造形美を堪能し崇拝し圧倒されたいだけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る