第432話

 視線を読んで、たま子が呆れる。

「姐さんで想像しろ」

 姐さんと聞いて最初に思い浮かんだのはみち子だった。みち子もまた、白衣の内側にマクワウリのような膨らみを隠している。しかも色気のある美人だ。たま子に比べて肉質は柔らかいに違いない。こちらは愛でるより感触を楽しみたい。

 すぐに間違いに気づく。たま子が指したのはおそらくおりょうだ。

 おりょうにも、小ぶりではあるものの形の整った膨らみがある。本人曰く「自前」だそうで、確かに触り心地にも違和感はない。

 初めて見たときの驚きと感動が甦る。大きくはないからこそ、下着を外してもあんまんのようなきれいな形が保てるのだろう……。

 左手小指の指輪が鈍く光った。え、と思う間に消える。見間違えかと目線を上げると、たま子と目が合った。

「今、光ったよね」

「そうだな」

「これ、なんで光るの?」

「わからないのか」

「……わからないから聞いてるんだけど」

「なら、気づいたときに教えてくれ」

「うん?」

 どうやらヒントをくれるつもりはなさそうだ。

 気持ちが落ち着いたところで食欲が戻った。ちらっと振り返る。もう席に着いたのか、カウンター付近に被り物夫妻の姿はない。

「何か取りに行くか?」

「うん。何かちょっと、軽めの……」

「ボクも行こう」

 デザートのコーナーで、安治は目を疑った。切り分けられた小玉スイカとマクワウリ、そしてあんまんが並んでいたのだ。

「…………」

 無言で悩み、結果あんまんを選ぶ。

「どうした、釈然としない顔をして」

「べ、別に。釈然とはしてるよ」

 慌てて否定する。迷ってなどいない。最初からあんまん一択だ、と自分に言い聞かせる。

「――ウリ科の植物、そんなに好きじゃないし」

「ウリ科?」

 他にもデザートの種類はある。ワッフルを皿に取りながらたま子は首を傾げた。

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