第433話

 再び席に着くと同時に切り出す。

「気づいたこと、あったよ」

「おう、なんだ」

「思いついた食べ物が、そのままカウンターにあった」

 余計な説明は省き、事実のみを伝える。顔は赤くなっていないと思うが、目は自然と逸らしてしまう。

 気づいた様子のないたま子は満足そうにこっくり頷いた。

「いい使い方だな」

「いい使い方って」

 では悪い使い方もあるのか、と反射的に思う。

「まずは望んだものを出現させる。そのためのものだと思っていい」

「ええ?」

 思わず引く。なんだその怪しい言い回しは。

「思っていい、って何。本当はそうじゃないってことだよね?」

「本当は――願いを叶えるためのものだ」

「ん?」

 さっきと同じことを言ったのか、違うのか。

「つまり、魔法の道具ってこと?」

 言いながら思いつく。所長室で見た魔法はこれを使っていたのかもしれない。

 たま子は無表情に考える素振りでワッフルをかじった。

「そう思いたければそう思えばいい。ただ……誰にでも簡単に使えるわけじゃない」

「だよね」

 簡単に使えるのなら、最初から使い方を教えてくれているはずだ。

「でも、じゃあ、何がほしいって願えば、目の前にそれが現れるってこと?」

「訊く前に試してみたらどうだ」

「えーと、じゃあ……何にしようかな……。あ、読んでた漫画の最新刊」

 指輪を見ながら唱える。光らない。

「出ないんだけど」

 笑いながら言う。たま子はまた、こっくり頷いた。

「それはな、お前が本心では『叶うはずがない』と思っているからだ」

 安治は少し考えて「そりゃそうだよ」と同意した。

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