第434話

「なんで叶うはずがないと思った?」

「なんでって……何もない空間からいきなり現れるはずないし。さっきも」

 皿の上のあんまんを見る。

「光ったけど、目の前にいきなり現れたわけじゃなかった」

「そうだな。ボクたちは空間から何かが現れるという状況に慣れていない。だから勝手に『これは叶わないだろう』と願いをキャンセルしてしまうんだ」

「待って。――あのさ、さっき俺……あんまんを願ったわけじゃないんだよね。単に思いついたってだけで。別に、食べたいと思ったわけじゃないって言うか……」

 たま子はまた頷いた。

「だから叶ったんだ」

「だから?」

「極端な言い方をするとだな、『何々がほしい』と思ってしまうと叶いづらいんだ。思うと同時に『でもそんなに都合よくいくはずがない』とキャンセルしてしまいがちだから」

「ああ、反射的に叶わない理由を探しちゃうってことね」

 よくわかる。今まで何度自分に「それは自分には無理だ」と呟いたことか。

 あの学校になんて入れるはずがない、医者になれるはずがない、あいつに勝てるはずがない、自分が選ばれるはずがない、あんなに高いものが買えるはずがない、あんなところに住めるはずがない、自分が手に入れられるはずがない……。

「叶わないだろうって思っちゃったら、もう叶わないんだ?」

「正確にはな、『叶わないだろう』が叶う――ってことなんだが」

「ああ、なるほど」

 少しわかった気がした。

「本心で願ったことが叶う――。この本心っていうのが曲者でな、自分ではそれを自覚できないことが多いんだ」

「頭で考えるのとは別ってことだね?」

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