第264話
高校生時代のバイト、慣れない一人暮らし、彼女との思い出、そんなことをベースに、実際に起きたこととあり得るはずのないことがごちゃ混ぜになった夢だった。
幸せな夢ではない。どの場面でも安治は何かをしようとしてはうまくいかず、誰かを苛立たせたり悲しませたりしては自分を責めて終わる。
目が覚めたときに思った。何故こうも夢は現実的なのだろう。都合の良い夢が見られないのだろう。夢というのは、自覚している自分の駄目なところを再認識するために見るものなのだろうか。
だとしたら、何のために?
「ご気分いかがですか?」
心配そうな声を聞いた途端に、夢の残りかすが霧散した。身体を起こしながら人間に戻っていることを確認する。寝ているのはベッドだった。
「あ、俺……リビングで寝てなかった?」
「はい、床に倒れてらっしゃったので、お運びしました」
こともなげに言う。これで二回目だ。華奢な見た目に反してどこにそんな力があるのか。
「ごめん。いつ帰って来たの? 仕事で忙しいのに余計なことさせちゃって」
部屋は照明を落として暗かった。おりょうは既に部屋着に着替えており、髪は洗った後に見えた。中性的な美貌でにこっと笑う。
「お気になさらず。お身体に違和感はありませんか?」
「うーん、ない……と思う……」
ヤギでなくなったこと自体に違和感はある。長い腕と細い指があるのが妙な感じだ。元はこんな身体だったのか、と不思議にさえ感じる。早くも忘れ始めていたらしい。
おりょうが訊いているのはそういうことではないだろう。痛みなどは特にない。すこぶる良好だ。
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