第144話

 優雅な仕草で一口飲む。カップを置いて――不味そうな顔をした。初めてはっきりと顔に表れた感情だった。

「ほら」

 笑いを堪えつつ指摘する。

「ほら、とは?」

「豆乳、駄目なんでしょ?」

「駄目ではない。豆乳は良いもの」

「うん? 豆乳が駄目なんて言ってないよ。タナトスは、豆乳が駄目なんでしょ。飲めないって意味」

「飲める」

「……じゃあ飲んでみてよ」

 タナトスは素直にもう一口飲んだ。口をつけるまでは貴公子然とした優雅な表情をしている。口に入れた途端、眉間に皺が寄って顔全体が歪んだ。まるで赤ちゃんだ。

「無理しなくていいよ」

「無理とは?」

「嫌いなものを無理に飲まなくていいってこと」

「何を嫌いと判断する?」

「だから、それ。豆乳が入ってるのはタナトス嫌い、でしょ?」

「タナトスは嫌いと判断しない」

「はあ?」

 ――自覚が下手なのよね。

 所長の言葉が浮かんだ。

 ――この子は人間と同じ感覚を持っているんだけど、まだそれを自分で自覚できないところがあるの。気づいたら教えてあげてちょうだい。

 言われたときは、何を言われているのかわからなかった。こういうことか、と目の当たりにして理解する。タナトスは豆乳が苦手だ。しかし本人はそうだと気づいていない。

 これを教えるのが教育係の仕事ということか――と納得する。

「タナトス、それ、嫌いってことだよ」

 子どもを相手にするように、簡単な言い方で告げる。子どものように無垢な表情で首を傾げるタナトス。

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