タナトス

第143話

「タナトス、ソイラテにする」

 自動販売機――もとい、自動提供機を前にタナトスは言った。

「え?」

 安治は手元の『タナトスファイル』をめくる。渡されたときにざっと見た際、苦手なものリストという項目があった。

 ココア、豆乳、きなこ――やはりだ。タナトスは豆乳は苦手なはず。

「ソイラテってそれ、豆乳入ってるよ」

「知っている。健康的」

「健康的って……タナトス、豆乳苦手でしょ? 普通のカフェラテにしたら?」

「タナトス、健康的なものが好き。豆乳は健康的」

「……あ、そう?」

 安治は首を傾げる。前任者からの引き継ぎ帳である『タナトスファイル』には色々なことが書かれている。ただしタナトスは『生物』であり経験や経年によって変化するので一概にこの通りではない、実際に接していて気づいたことがあれば追加して書き込むように……と言われた。

 少し前までは苦手だった豆乳が、今は平気になった――ということなのだろうか?

 疑問には思ったが、本人が好きだと言うのだから止める必要もない。安治は静観することにした。

 白く形のいい細長い指でボタンが押される。出てきたチルドカップを持ち、タナトスは隣の休憩室に入って行った。エスプレッソを選んだ安治が続く。

 ――飲み食いするのかな。

 人間と同じとは言われたものの、どうにも安治にはタナトスが人形に見えてしまう。好奇心を抑えられずに観察していると、タナトスはかまわずに自然な動作でストローを差し、口に持って行った。

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