冷蔵庫開く
第280話
話が済んだのでタナトスとの待ち合わせ場所である食堂に向かおうとすると、たま子が「ボクも行く」とついて来た。
並んで歩きながら訊く。
「仕事いいの?」
「ああ、今日は休みなんだ」
「休み? 研究室にいたのに?」
「ああ。他に行くところがないからな」
「……ゆっくり寝るとか」
「いつも通りに寝たからな。いつも通りに目が覚めて、気づいたらここにいた。うっかりした」
「習慣ってやつだね」
数秒の間を置いてたま子が言った。
「休みの日、何をしようかって考えるの、めんどくさくないか?」
安治は同意しようとしてやめた。同意してしまったら、何だか切ない気がする。
休みだから何をしたい――というのがない人生だった。精々日頃の寝不足を解消して、コーヒーでも飲みつつだらだらと漫画を読めれば満足だ。
エレベーターが開く瞬間、無意識に身構えている自分に気づいた。呼吸が早くなり目にも力が入る。躊躇なく開いた扉の内側には――何もない。
――そうそう出遭わないか。
ほっとしつつ、たま子に悟られないよう顔色を隠して乗り込む。臆病だと思われるのは嫌だ――と思うのは、臆病だからだろう。
何も感じていない様子のたま子が画面を見てコールする。
「カラフルスクワッシュ、大食堂まで」
「カシコマリマシタ」
「うわ、読みづらいね」
カタカナの羅列に思わず感想が漏れる。
「ああ、カラフルとスクワッシュの間に点がほしいよな」
「っていうか、スクワッシュって何?」
「英語でカボチャのことらしいぞ」
「え、パンプキンじゃないの?」
「さあな。ボクに訊くな」
――なんで英語?
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