第353話

 タナトスの回答は簡潔だった。

「知らない」

 ――そりゃそうか。

 誰もタナトスにそんな話をするはずがない。

 一息ついたところで雑誌に戻る。

 残りは白黒ページだった。「裏通り特集」とあり、紹介されている店の一覧と所在地をまとめた地図が冒頭にある。予約方法も書かれているので、こちらは予約してから行くのが一般的なのかもしれない。

 ――裏通り?

 意味はすぐにわかった。カラーページでは勤めている娘がメインで紹介されていたのに対し、こちらでは人物の扱いは大きくない。店の雰囲気と提供しているサービスの紹介が主だ。

 どうやら裏通りというのは、ソトで言う風俗店街のことらしい。小さく載せられた写真にはやや刺激的なものも映っている。ニッチな要望にも応えるべく、店の種類はバリエーション豊富にあるようだ。

 ――ってことは?

 翻って、先ほどまでの美女たちはそういうサービスは行っていないということか。

 確かに性的な行為を連想させる表現はなく、まだ一五、六歳に見えるような子もちらほらいた。アイドルっぽい写真だとは感じたが、本当にアイドルのような存在なのだろう。

 ――……なんだ。

 すとんと肩から力が抜けた。

 おりょうが鳥居町で働いていたと聞いて、丸っきり気にならなかったわけではない。花街と言うからてっきり、密やかな仕事を想像していた。もちろん、客との間にまったく何もないということはないだろうけれど……それでも。

 勝手に変な想像をして申し訳なかった。一人苦笑する。

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