第354話

 思えば、気になる点は素直に質問すれば良かっただけの話だ。つい余計な気を回して、ものわかりの良い振りをしてしまった。

 考えてみればおりょうが隠し立てしなかったのも、隠す必要のないことだからではないか。むしろ売れっ子だったという自慢話なのかもしれない。

 そうだそうだ、馬鹿をやった――。

 ほっとして気楽にページを眺めていると、男装倶楽部というのに興味を惹かれた。『男装』した娘が接客してくれるらしい。こちらは性サービスの提供はなく飲食だけのようだ。

 ――それってホストクラブ……?

 客は女性と男性どっちなのだろう。

 今まで見てきたのはすべて、男性客のみをターゲットにしたものだったように思う。

 当然マチには女性もいるわけで、数少ない女性向けの店なのだろうか。

 それとも。

 ――ゲイバー?

 意図的に考えるのを避けてきたが、ずっと気にはなっていた。娘と付き合う男性はゲイと見なされるのだろうか。

 どうもそんなことはないような気がする。娘と付き合うのも女性と付き合うのも、マチでは同じなのではないか。環境的に、自然と――いや、必然的にそうなったに違いない。

 でも生まれつきの同性愛者は一定数存在するはずで。

 ――それを対象にしたのが男装倶楽部?

 客層についての記載は特になかった。もしかしたら男性も女性もという店なのかもしれない――。

 そんなことを漫然と考えていたときだった。

 ふと、目がページの一角に吸い寄せられた。アモーレという老舗ヘルス。老舗と言っても単に古いだけで、大きくもきれいでもない。

 そこに「過去に在籍していた娘」として「すず香」の顔写真があった。――十代の頃と思しいおりょうだった。

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