タナトスの怪談

第355話

「ふわッ」

 とおかしな叫び声を上げた安治に、向かいのタナトスがびくっと肩を震わせる。

「何ごと?」

「な、何でもない、何でもない」

 慌てて雑誌を閉じ、引ったくるように抱えて立ち上がる。

「ちょっと、あの、コーヒー取ってくる」

 言い置いて去ったテーブルには、まだ冷め切っていないコーヒーが半分入ったカップが残されていた。

 タナトスはそれをしばらく不思議そうに眺めていたものの、一つ首を傾げると、児童向け怪奇小説の続きに目を落とした。

 安治は雑誌を返すと一旦図書室を出て手洗いに行き、ゆっくり用を足して戻って来た。言ってしまった手前、新たにカプチーノを注いで戻る。

 テーブルに戻るなり、タナトスが指を差して指摘した。

「安治、コーヒーある」

「これはカプチーノ。そっちはブレンド。同じコーヒーでも別ものなの」

 用意していた言い訳を告げ、顔に疑問符を浮かべたタナトスが厄介な質問を繰り出してくる前に先手を打って質問する。

「それ、面白い?」

 訊かれてタナトスは手元の本に目を落とした。

「面白い」

 そう答える声に感情は伴っていない。面白いかと問われたので反射的にオウム返しをした雰囲気だ。

「怖くない?」

 子ども向けだからそれほど怖くはないか――と思いつつ訊く。タナトスはちょっと首を傾げた。

「怖い」

 やはり感情が伴っていない。安治は苦笑する。

「怖いの? どの辺が?」

 内容に興味があるわけではない。自分に話を振られたくないので訊いたまでだ。

 期待通り、タナトスは眉間に皺を寄せて今までに読んだところをぱらぱらとめくった。

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