第292話

 エレベーター内と通路に設置された計四台のカメラの映像が分割画面で流れている。映っているのは安治だ。エレベーターを降りるところで何かに驚いて立ち止まり、続いて腕を引っ張られているような動きをする。

 駆け寄るおりょうの姿も映っているが、冷蔵庫の存在は確認できない。一人でパントマイムをしているようだ。

「……映ってない」

「大丈夫よ、あなたの証言を信じるから。どんな冷蔵庫だったの?」

「あの……出入り口と同じくらい大きくて、最初から扉が開いてたんです。エレベーターから降りようとしたら引きずり込まれて……」

「全身?」

「俺はそう感じたんですけど、おりょうちゃんは腕だけだって」

 おりょうが頷いて口を添える。

「私も大きな灰色の冷蔵庫を見ました。安治さんが降りようとした瞬間に現れて、狙ったように扉が開いたんです。左腕が内側に届いたくらいで閉まって、消えました。現れていたのは二秒ほどです」

 一番近くにいた戸田山が近寄って来て左腕に触る。

「見た感じ、何ともないけど」

「でもこれ、俺の腕じゃないんです」

「俺の腕じゃない?」

「俺の腕は……多分、吸い込まれちゃったんです。これは、別の誰かの腕で」

 言っている間に左手は、触られるのをやんわりと拒否する仕草をした。

「感覚がないってこと?」

 みち子が訊く。

「感覚はあります。……本当の自分の腕の感覚が」

「本当の腕?」

 怪訝そうに顔を顰める。

「それってどこに――」

 問いかけるのと同時だった。

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