第287話

 その日、それ以降、どこに行っても安治はずっと冷蔵庫を目で探していた。気づいたなら近くの人に警告しなければならないという使命感が生まれていた。移動中も食事中も図書室にいる間も、遠くにばかり目が行って手元に集中できない。

 ところが皮肉なことに、それきり冷蔵庫を目撃することはなかった。まるで意志があるかのように、探し始めた途端、なりを潜めたのだ。

 ――逃げられた。

 そう思った。

 安治の様子が変わったのにたま子とエロスは気づいているようだった。そのせいか、おりょうの帰宅予定である夜七時まで離れようとはしなかった。

 夕食を取った後エレベーターの前で別れる際も、二人はいくらか気遣わしげに「気をつけてな」と言ってくれた。

 空元気を出して笑顔で礼を言って別れる。一人で乗り込んだ箱の内部にも、探しているものはない。

 出現期間は二、三日と言っていた。ひょっとしたらもうこれきり出遭うことはないのかも……。

 ――遭わないほうがいいんだけど。

 それはわかっている。でも何だか心残りだ。

 遭遇しやすい体質と言われたときは損だと思った。しかしそれを人の役に立てることができるならば、むしろ得ではないのか。

 好き好んで危険を冒している冷蔵庫チームを犠牲にすることになっても、罪のない市民を守れるのならば、冷蔵庫チームに協力して捜索を手伝うべきだったのではないか。

 いや――。

 みち子も誰も、安治にそのような指示はしていない。冷蔵庫を調べるために安治の身を危険に晒すなど、不必要なことなのだ。

 皆ただ、冷蔵庫には近づくなとだけ言っていた。安治が守るべきはその指示で、興味を持つこと自体、彼らの意に反しているに違いない――。

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