怖い
第363話
タナトスはふと安治を見つめた。いつも水色か茶色に見える灰色の瞳が、光の加減なのか、今日はやけに青く見えた。そのまま視線を逸らさずにミルクティーのカップを両手で持っている。
――なんで見つめるんだろう。
考えてぞっとした。視線の先にあるのが自分とは限らない。
――何か見えてる?
後ろを振り向く。誰もいない。少しほっとした。
「安治が怖いものって何?」
前に向き直ったところで訊かれた。
「怖いもの……」
「幽霊が怖い?」
「まあ、ねえ」
「安治は幽霊を見たことがある?」
「ないよ。霊感ないもん」
「見たことないのに怖い?」
「……見えないから怖いんじゃない?」
見えていたらむしろ怖くないのではないか――。
前に聞いた覚えがある。霊感が強くて物心ついたときから当たり前に霊の姿が見えていた人は、それが生身なのか霊なのか区別がつかないのだと言う。ならば怖いとは感じないだろう。見えるだけで実害がない限りは。
タナトスは否定的な様子で首を傾げた。
「見えなかったら、いないのと一緒」
「うーん……」
思わず唸る。見えなければいないのと同じ。安治もそう思う。思うのに、幽霊は怖いと感じる。もし誰かに「そこにいるよ」なんて言われれば飛び退くだろう。
「いるのに、見えないから怖いんじゃない?」
考え考え答える。すぐに反論が返ってきた。
「見えないなら、いると証明できない」
「うわ」
安治は顔を歪めた。タナトスの発言に突然、幽霊とは別の嫌な記憶が甦ったのだ。
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