第362話
中に入っていたモノについて束の間想像を膨らました後、気がついて慌てて褒める。
「いや、上手かったよ。タナトス、読むの上手だね」
すらすらと読まれるよりぎこちないのが却って、注意を引かれて聞き入ってしまった。
褒められると素直に胸を張る仕草をするタナトス。それから肩にかかった髪を後ろに払い、優雅な動作でミルクティーが入ったプラスティックカップを口に運んだ。
タナトスの動きには身体にも表情にも人工的な感じは一切ない。純粋に、育ちの良い貴公子然としている。よくもここまで人工的でない人工物を造れたものだ――と今さらながらに感心する。
もしタナトスをアントロポスだと紹介されなかったら。顔立ちがもっと凡庸な人間のそれだったら。当たり前に、生きた人間だと思ってしまっていただろう。
――怖。
思ってから、何が怖いんだ? と自問する。
タナトスは怖くない。普通の人間だからだ。少し変わってはいるけれど、少しどころか激しく変わっている人間も世の中にはざらにいる。飲食店で働いていたから、二度と関わりたくないタイプの客と遭遇した経験はままある。それに比べればタナトスはごく常識的で、可愛いくらいだ。
――何が怖いんだ?
もう一度自問する。
人間だと思っていたものが、本当は人間ではなかったことが――だろうか。
さっきの話のレナが怖いのも、そういうことだろう。
よく考えたら、レナはエマにもマナミにも何もしていない。ただ、いただけだ。害を与えていないどころか、エマが一人きりになる寂しさを緩和していた可能性すらある。
なのに怖いと思ったのはやはり、人間だと思ったものが人間ではなかったから――なのだろう。
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