第120話
「なかったら至るところで性犯罪が起きるだろうが。……鳥居町を中心に、その周辺の繁華街をナカマチと呼ぶ。ボクが育った場所だ」
「繁華街出身なんだ……」
閑静な住宅地出身の安治にはぴんと来ない。学校帰りに寄るのはコンビニや書店ではなく、もう少し賑やかな――それが何か思いつかないが――お店だったりするのだろか?
朱色の鳥居はかなり大きい。反面、周辺には高い建物がないのに気づく。精々が二階建てだろう。ほとんどが一戸建てで集合住宅もない。一方で中心地から外れたところに大きな団地があった。山の麓にも大きな施設が見える。
「あれ……山のところにあるの、ショッピングモール?」
違うだろうなと思いつつ言ってみる。建物だけなら商業施設にも見えなくはないが、人気が感じられない。案の定、失笑が返ってきた。
「そんなもの、あるわけないだろ。あれはファミリーの実験施設だ」
「あ、ここってこと?」
「いや、違う。えーと……見えないな……。地図や何かだと、本社の敷地は見えないようになってるんだ。あの施設は本社とはまったく違う場所にある」
「ああ、襲撃対策でね?」
「そうだ」
話す間に地面が近づいた。
中心地からはだいぶ離れた、山に近い辺りの何もない空き地――と思った途端、目の前に近代的な高層ビルが現れた。窓ガラスが光を反射させて輝いている。
「これが本社だ」
声がするほうを見る。たま子がいた。ようやく姿が見えるようになった。
二人はまるで透明なエレベーターに乗っているように、ゆっくりと本社の横を垂直に降下した。
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