第246話
鮮やかな実をつけたイチゴを通り過ぎながら、これは食べてはいけないのだろうかと考える。
――今ならヤギだから許されるかも。
しかし人間に戻ってから怒られるのも嫌だ。余計な誘惑を受けないよう、タナトスを見上げながら進む。
じきにタナトスが何かを見つけた様子で、安治に視線を合わせてきた。口元が綻んでいる。
――何を見つけたんだ?
探る間もなく、タナトスは嬉しそうに小走りでそちらに行ってしまった。安治も後を追う。
不意に背の高い木がなくなって日差しが溢れる場所に出た。イングリッシュガーデンと言うのだろうか、背の低い植物が密に茂っている。道の先にいた動物がタナトスに驚いて逃げる。
――なんだ?
一瞬だったのではっきりとはわからないが、黒いミニブタに見えた。タナトスはそれを追うことはせず、立ち止まるとおもむろにしゃがみ込んだ。草むらに別の動物がいるに違いない。
「チッチ、チッチ」
とタナトスが声をかけている。
後ろから覗き込むとニワトリがいた。よく見かける種類の――観賞用ではなく食用の――白いニワトリと茶色いニワトリだ。
ニワトリたちはタナトスから一定の距離を取りつつ、それでもかまわずに地面を突いている。自分たちの何倍も大きな動物が自分たちを見ていることに対する恐怖心は感じられない。マイペースだ。
――動物って、食べることしか考えてないよな。
そう思ってから、それは偏見なのだろうかと考え直す。実際にニワトリになってみなければニワトリの気持ちはわからない。そしてそれは無理な話だ。
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