第247話
今、安治はヤギになっている。とはいえヤギなのは見た目だけで、中身は安治のままだ。きっと戻った後も、今の記憶は引き継がれるに違いない。
『本当に』ヤギになったとしたら?
そのときは人間だったときの記憶はないはずだ。だから人間の自分だったらどうするか……と考えることはできない。たとえヤギだったときの記憶が人間に戻った後に残ったとしても、思い出すのは人間である自分なのだから、ヤギとしてどう思ったか……はわからないだろう。
結局、他の動物にはなれないのだ。というより、他の何者かになることなんてできない。
『自分が』他の何者かになったとして、それは自分に他ならないのだから。
タナトスの背中を見つめる。何か衝動が芽生えたと気づいたときには、再び頭突きをしていた。
長い白髪を勢いで宙に舞い上がらせながら前方につんのめる。驚いたニワトリがギャーギャー騒ぎ出す。
「メ……メェェ……」
――ご、ごめん。
慌てて引き起こそうとするも、人間の手がないので難しい。角が刺さらないよう気を遣いながら身体の下に頭を突っ込む。
「安治、乱暴」
ぷりぷりしながら起き上がったタナトスに怪我はない。しかし手と顔が草と泥にまみれていた。
「メェェェ……」
――ごめん。
自分でも理屈のつけられない、急な衝動だった。何故そんなことをしてしまったのかと反省しつつ、清々しさも感じている。
タナトスの怒りは長くは続かなかった。ヒツジが近くを通ったのに気を取られ、すぐに追いかけ出したからだ。
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