第248話
――ヒツジだ!
安治も喜んで駆け出す。ヒツジを生で見るなんてどれくらい振りだろう。ひょっとしたら小学生の頃に遠足で行った牧場以来かもしれない。
ヒツジはぴょんぴょんと跳ねるように駆けながら、追ってくる二人を振り返った。そしてスピードを上げると、前方にある小屋に飛び込んだ。
「中に入った」
「メェ」
――何の小屋だ?
開け放しの入り口から覗き込む。中には牛と馬とヒツジ、そしてヤギが数頭ずついた。
――わあ。
思わず見惚れる。手前の近いところに若く美しい女性がいたからだ。
束の間ぼうっとしてから我に返る。
今、自分は……何を見た?
改めて目を向けると、そこにいるのは一頭のヤギだった。もうきれいな女性には見えない。
先ほどきれいな女性と思ったのは、ヤギの姿だったろうか、それとも人間の姿だったろうか。
思い出せない。とにかく魅力的な異性がいるとだけ感じたのだ。
――魅力的な異性……。
心中で呟いてぞっとする。そう見えた瞬間、自分は本当にヤギになってしまっていたのではないか……。
ヤギたちは安治を見て、好意的ともそうでないとも取れる素振りをしていた。興味ありげにじっと見つめるのもいれば、二頭でひそひそと話し合っているような動きのもいる。
――まさかここにいるのは……。
元は人間――?
ホラー映画のような展開を想像して背筋が寒くなる。そんなはずあるわけないという思いと、自分は既に踏み入れてしまったのではという不安が同時にわいた。
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