第156話
安治は少女が確実に遠ざかるまで見送ってからタナトスに向き直った。
「……なるほど」
「う?」
「なんでそんなに嫌いなの? 何かきっかけが?」
問うと、タナトスはさっきまでの無垢な表情を取り戻して首を傾げた。
「嫌いではない。エロスとタナトスは恋人。唯一の兄弟。愛し合っている」
「…………」
――自覚が下手なのよね。
自覚させることなんてできるのだろうか――。安治は先が思いやられて頭痛を覚えた。
残っていたエスプレッソで一息ついてから『タナトスファイル』を開く。
探すとエロスについてのページは既にあり、今と同じようなできごとが複数記録されていた。ざっと読んでも、なぜそのような関係になったかについては書かれていない。どうやらタナトスは最初からエロスのことを好ましく思っていないようだ。
「……まあ、姉だもんね」
安治はぼそっと呟く。安治が二人の姉それぞれに対して持っている感情は複雑だ。長姉のことは大嫌いで、具体的な理由を挙げるならいくらでも挙げられる。しかし最大の難点は、自分の意志で関係を選べない点だと安治は思っている。
他人なら、嫌いなら付き合わないという選択ができる。家族は選べない。生まれたときには否応なくそこに存在していた。それがおそらく納得できないのだ。
色々な理由を考えたり、解釈の仕方を変えようと試みたりしても、最終的には「何故あれが自分の姉なのか」という憤りになってしまう。そこに理屈は存在しない。
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