第367話
「むっとしないでよ。念のため訊いただけじゃん」
「むっとするとはどういうこと?」
「今ちょっと怒ったでしょ」
「怒っていない」
「怒ってたよ。まあいいや……クリスマスでさ、すごく混んでたの。だいたいクリスマスのときって、飲食店が混むのね。みんなカップルや友達同士で出かけるから。それで予約してたカップルが時間通りに来たんだけど、すぐに席に案内できなかったのね。いつもと違ってお客さんが目一杯入ってるから。一〇分くらいお待たせすることになりますって言ったの。そしたらさ、そのカップルの男のほうが怒っちゃって。予約してたのに一〇分も待たせるってどういうことだって」
安治はそこで言葉を句切り、タナトスの反応を待った。タナトスは首を傾げつつ応えた。
「予約していたのに、予約通りの提供が行われなかったのなら、店側に非がある」
「そうだよ。それはわかってる。だからその点は謝ったの。だけどそのお客さん、簡単に引き下がってくれなくて。せっかくのクリスマスで楽しい思い出を作ろうとしてたのに、台無しにされた、どう責任取ってくれるんだ、とか言い出して」
――台無しにしてるのは自分だろう。
連れの女性の引き攣った顔が思い浮かぶ。彼女はおそらく、言われた通り一〇分待てばそれで何も問題はないと思っていたはず。なのに男が騒ぎ出してしまったせいで、嫌な思いをする羽目になった。
「まあ、言ってることはわかるよ。クリスマスにデートってことで、気合い入ってたのかも知れないし……」
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