第366話

 言いながら悩む。自分が言いたいのはそんなことなのだろうか。胸の奥にあるものをうまく言葉にできなくてもどかしい。

 案の定タナトスは眉間に皺を寄せた。

「……正しいか正しくないかを求めると、みんなに嫌われる?」

「違う。そういう意味じゃないんだよ。……ごめん、うまく言えなくて。正しいか間違ってるかは重要。だけど……待って、考えるから」

 自分は何が言いたいんだ。簡単にまとめられない。

 正しいかどうかはまあ、重要だろう。間違っていれば、そのほうが他人に嫌われる。でも正しさを押しつける人間もまた嫌われる。

 ――何で?

 正しいのに、何故人に嫌われるのだろう……。

「あ、そっか」

「何?」

「うん、あのさ、正しさって人によって違うんだよ」

 タナトスはさらに眉間の皺を深くした。首を左に傾げる。

「人によって違うなら、それは正しさでない」

「まあそうだね。だからさ……自分が思う正しさって、実は自分でそう思ってるだけなんだよ」

 タナトスの首が今度は右に傾いた。

「そう?」

「例えばさ、さっきの怪談で言うと、主人公には妹が見えてて、友達にはその妹が見えなかったわけでしょ。つまり、主人公にとっては『妹がいる』が正しい、友達にとっては『妹がいない』が正しい。ね?」

 タナトスは頷いた。

「ずれている」

「そう、ずれてるんだよ。……前に俺、飲食店でバイトしてたんだけど」

「バイト」

「あの、働くってことね。大学に通いながら一日に数時間だけ働いてたの。生活費を稼ぐために」

「生活費」

「でさ、クリスマスの日だったんだよ。……クリスマス、わかる?」

「わかる」

 この問いにはタナトスは若干、むっとした様子だった。

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