第130話
この麦茶は美味しい。おりょうが作ってくれたのだろうか。
実家にいるときはもちろん、切らさずに澄子が作ってくれていた。澄子は家事が完璧なのだ。
おりょうと澄子――二人を交互に思い浮かべる。やはりイメージが被る。澄子を洗練された美人にしたのがおりょうという感じがする。
――逆なのかも。
安治の記憶では、澄子とは生まれたときからの付き合いで、おりょうとはつい今日知り合った。現実には順番が逆のはずだ。澄子や実家の記憶を植え付けられる前に、安治はおりょうを知って恋心を抱いている。
ならばおりょうのイメージの変形が澄子――ということではないのか?
姉だから、自分の容姿をおりょうにミックスして少し老けさせたもの――なのかもしれない。
――オリジナルがいるんだよな。
安治の記憶にある澄子は、そんな感じで自分に似せた姿に変えられているのだろう。オリジナルの澄子はおそらく似ていない。似ていないが、自分と無関係な澄子という薄幸な女性はソトのどこかにいるのだ。今現在も。
――何してるんだろう。
考え出すと尻が落ち着かなくなる。ひょっとして今も実家で家政婦のような扱いに耐えているのだろうか。それとも家を出たり、結婚して新しい家庭を持ったりしているのだろうか。
――幸せだといいな。
ただそれだけを願う。会ったことのない、知らない女性だけれど。
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