第405話

「それじゃ」

 と所長が出て行く。スペースを空けていたヤツハシが途端に、再度隙間を埋めるべく広がり始めた。安治は慌ててハンディクリーナーを構える。

「うわッ」

 目につきやすい下ばかりを吸っていたら、天井から滴が垂れてきた。素早く振り払って今度は天井を吸う。安治の長身と掃除機のノズルで難なく届くものの、長時間の作業はきついなと早くも思う。本体の重さは二キロほどだろうか。紙パックが膨らむごとにその重量も増えていく。

 所長は人だけを助ければいいと言ったが、実際そんなわけにはいかなかった。仮に人だけを解放しても、周りにヤツハシがいればすぐにまた捕まってしまうからだ。結局、人と周囲のヤツハシ両方を同時に片づける必要がある。

 数分必死に作業をしたところでふと気づいた。他二人が何もせずに突っ立っている。

 雪柳はまだ胸の前で両手を組んだまま、所長が出て行ったドアをうっとりと見つめていた。タナトスは両手に荷物をぶら下げて、ただ安治を眺めている。

 ――くッ。

 何か腹が立った。

 しかし掃除機は一つしかない。手伝わせようにもさせることがないのだ。

「あの……雪柳さん?」

「何?」

 呼ぶと、うっとりした表情のまま、くるんと振り返って返事をする。

「俺がヤツハシを吸い取るので、終わった人から介抱してあげてください」

「ヤツハシって何?」

 笑顔のまま即座に聞き返される。安治は答えに詰まったのと、腹が立ったので無視した。早速片づいた一人を指差して指示だけ出す。

「この人終わりましたから、安全なところに移動させてあげてください」

「安全なところってどこ?」

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