第400話

「お待たせ。何か楽しそうね」

 ちょうど戻って来た所長に言われた。安治は軽く膨れて否定する。

「楽しくないです、俺は」

 所長が胸の前で捧げ持っているものに目を遣る。一見して、よく見かけるタイプのハンディクリーナーだ。特殊な装置には見えない。

「それが……?」

「ええ、これで吸い込めると思うの。やってみて」

 軽く手渡された。持った感じもやはり普通のハンディクリーナーでしかない。

 ――こんなので効果あるのか?

 半信半疑ながら、タナトスの足下でへろへろと動いていた一体に向けてスイッチを入れる。その瞬間、無意識に「おお」と声を上げていた。

 目で追えない速さで綺麗に吸い込まれた。意外なほどの性能に感動がわき上がる。

「すごいな」

 感動した様子でたま子も手を叩く。視界を共有できないタナトスだけ蚊帳の外だ。

「安治、掃除をする?」

「うん、そうだよ」

 確かに掃除だ。間違いではない。

 続けてタナトスとたま子に纏わりついていたのを一掃する。あっという間だった。人の形の一部が吸い込み口に触れるかどうかで、全体がするっと消える。

 ヤツハシの集合体なのだろう水溜まりを吸うのには少し時間がかかった。それでも一平米五秒もあればきれいになる。

「すごいですね、これ。でもゴミが一杯になったらどうするんですか?」

「圧縮して紙パックに入るタイプだから、一杯になったらパックごと捨てれば大丈夫よ。捨てるときはこれに」

 何やら特殊なコーティングが施されている雰囲気の大きな巾着袋を渡される。替えの紙パックが入った袋も渡され、つけ替え方をレクチャーされる。

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