第8話

 ――おじさん?

 ということはやはり三十代以上だろうか。いや、親の兄弟や従兄弟という意味かもしれない。

 母方はだいたい覚えている。こんな人はいない。父親の実家は遠方かつ親戚が多いので、見てもわからない人や会ったことのない人がけっこういる。

 ――でも知り合いということは。

「会ったことがあるんですか?」

「いえ、時系列では初めてですね」

 若紳士は穏やかにそう答えた。声もやはり年齢不詳だ。落ち着いているようであり、軽く弾むような雰囲気もある。高いか低いかで言えば高い。でも老成した渋みも感じさせる。

「時系列?」

「あなたが記憶しているだろう世界の序列では、という意味です」

「はあ……。初めて会うのに、知り合い?」

「あなたの知り合いすべてに、あなたと初めて会う瞬間はあったでしょう。それ以前は知らない人です」

「はあ……」

 言っていることというより、何を言おうとしているのかがわからない。

「で、知り合いなんですね?」

「こうして出会ったのですから、今後私たちの関係は知り合いだと言えるでしょう。それを最初の段階から名乗ったまでです」

「はあ……」

 ――めんどくさい人だな。

 安治は思った。めんどくさい人と知り合ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る